<彼氏のケース>「先輩のためなら」が…
 
「これ、どういうこと? 保証人って?」

  母(49)の問いかけに、彼(23)は最初、何のことだかわからなかった。

  2週間前、ある消費者金融会社から、自宅に一通の請求書が届いた。「金100万円を月末までに振り込むように」と記されていた。主債務者であるX氏の支払いが止まったため、保証人となっていた彼へ請求が回ってきたのだ。

  X氏の名前を見て、次第に記憶がよみがえってきた。

  「アルバイト先の会社のXさんから保証人になってくれと頼まれたことがあったなぁ……」

  4年前、大学生だった彼は、あるゲームソフトの会社でアルバイトをしていた。コンピューターが好きで、将来もその方面で仕事をしたいと思っていたからだ。小さな会社で、社員も和気あいあい。なかでも営業マンのX氏が、彼をとてもかわいがってくれた。一緒に外回りに出かけたこともあり、はた目ながらも営業の苦労を教わった。

  ある日、営業の帰り道。X氏が言いにくそうにしゃべった。

  「申し訳ない。銀行から金を少し借りるので保証人になって欲しい。名前だけでいい。迷惑はかけないから」

  競争の厳しいゲーム業界で、クライアントとの関係を保つ営業費用が足りない、と言う。

  「いいですよ、いくら借りるんですか?」

  「100万円」

  少々不安がよぎった。

  「キミ以外にも何人かに保証人なってもらうつもり。心配しなくていい。それに、おれの給料ですぐに返せるから」

  言葉にうそは感じなかった。なにより、世話になっているX氏の力になりたい。借入先が消費者金融だと気づかず、形式的な連名程度と思ってOKした。

  それから4年。何か事情が変わったのだろうか。

  母に言われて、X氏に連絡をとろうとしたが、ソフト会社は別会社に吸収されていた。X氏も退職し、行方知れずだった。

  一方、保証人は彼だけで、1人で責任を負わなければならないことも判明した。

  「僕がXさんを信じたんだから、払うしかないよ」

  今春社会人になったばかりだが、X氏を責めるわけでもなく、仕方がないと思っている。
 
 
安易に保証人にならないで

未成年者が、保証契約のような法律行為をするには、原則として親権者の同意が必要だ。これがないと取り消すことができる。このケースも、いまなら可能だ。ただ、この取り消し権は、未成年者が成人になって5年間過ぎた場合や、保証債務を支払ってしまうと失われる。

  また、「保証人が複数」「X氏が返済できる」と信じた点について、錯誤(勘違い)を理由に「契約無効」と主張することも考えられるが、現実には難しい。
  金融機関側が、必ず、保証人の年齢や勤務状況までを厳格に審査するわけではないので、収入のない未成年者や主婦などが保証人になることは実際に起こり得る。特に最近、高校生や20歳未満の大学生が保証人になってしまった、という親からの相談が急増中だ。

  保証するということは、いざという時に借金を肩代わりするということ。その責任の重さを認識するように注意したい。
 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里